【筐体設計における防水と防塵の違いとは?
電子機器や精密機器の筐体設計では、防水と防塵性能への要求が年々高まってきています。
特に、屋外で使用される製品や過酷な環境にさらされる機器では、これらの保護性能が製品の寿命や信頼性に大きく影響します。しかし、防水と防塵は似たような概念でありながら、それぞれ異なる要件を持っていることを見落としがちです。
本記事では、防水と防塵の違いについて詳しく解説し、設計時に注意すべきポイントを紹介します。
防水と防塵の定義
まず、防水と防塵はそれぞれ異なる目的を持つ保護性能です。
- 防水:
水や液体の侵入を防ぐ性能を指します。
雨や水しぶき、さらには一時的な水没など、さまざまなシチュエーションで機器内部への液体の侵入を防ぐことが求められます。 - 防塵:
塵や砂など、固形物の侵入を防ぐ性能です。
特に砂漠地帯や工場など、粉塵が多い環境で使用される機器では、防塵性能が重要になります。
IP規格による保護等級
防水と防塵は、「IP規格」によって具体的な保護レベルが定義されています。
この規格は、国際電気標準会議(IEC)が定めたもので、「IPXX」の形式で表記されます。
- 最初の数字(0〜6):
防塵性能を示します。数字が大きくなるほど、小さい粒子までしっかりと遮断できることを意味します。- 例: IP5X(ほこりが内部に侵入する可能性はあるが、機器の動作に支障はない)、IP6X(完全な防塵)
- 2つ目の数字(0〜8):
防水性能を示します。こちらも数字が大きくなるほど、水への耐性が高くなります。- 例: IPX4(あらゆる方向からの飛沫に耐える)、IPX7(水深1メートルで30分間耐える)
設計上の注意点
防水設計
防水設計では、水滴や液体が筐体内部に侵入しないようにするため、シーリング材やガスケットなどを適切に使用することが求められます。また、水圧や水流に対する耐性も考慮しなければならないため、以下の点に注意しましょう。
- シール材の選定:
Oリングやガスケットなど、高品質で耐久性のあるシール材を使用することで、水漏れを防ぎます。 - ベント設計:
圧力差によって筐体内外で空気が膨張・収縮する場合、防水ベント(通気口)を設けることで圧力調整を行いながら、防水性を確保できます。 - 排水経路:
水が溜まりやすい部分には排水経路を設け、水分が自然に流れるような構造設計も有効です。
防塵設計
一方、防塵設計では微細な固形物(例えば砂やホコリ)が筐体内部に入り込まないようにする必要があります。特に動作部品周辺への粉塵侵入は故障原因となるため、以下の点を考慮しましょう。
- 密閉構造:
筐体全体を密閉することで、小さな隙間からも粉塵が侵入しないようにします。 - フィルター使用:
通気口にはフィルターを設置して、空気は通すものの粉塵は通さない工夫も有効です。 - 静電気対策:
粉塵は静電気によって引き寄せられることがあります。静電気対策として導電性材料やコーティングを施すことも効果的です。
テスト方法
製品開発時には、防水・防塵性能を確認するためのテストが不可欠です。それぞれ専用のテスト方法があります。
- 防水テスト:
水没試験や噴流試験など、水圧や浸透時間などさまざまな条件下で筐体内部への水分侵入具合を確認します。 - 防塵テスト:
粉塵暴露試験では、一定量の粉塵環境下で長時間放置し、その後内部への侵入状況を確認します。
求められる性能レベル
製品によって求められる防水・防塵性能レベルは異なります。例えば、スマートフォンでは一般的に「IP67」または「IP68」が標準ですが、産業用機器ではさらに高い耐久性が求められる場合があります。
- 屋外使用製品: IP67以上
- 産業用機器: IP68以上
- 家庭用電子機器: IP5X程度
防水と防塵の両立
多くの場合、防水と防塵は同時に求められます。例えばスマートフォンの場合、水にもホコリにも強い筐体設計が必要です。しかしながら、防水性と放熱性など他の要件とのバランスも重要です。そのため、材料選定や構造設計には慎重さが求められます。
まとめ
筐体設計では、防水と防塵という2つの異なる保護要件について深く理解し、それぞれ適切な対策を取ることが重要です。IP規格などで定義された基準に基づきながらも、実際の使用環境や製品用途に応じた最適化を行うことで、高品質かつ信頼性の高い製品開発につながります。
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